「Meeting アラスミ!」レポート 連続講座 20202022-03-18T16:50:49+09:00
ホーム理論編「Meeting アラスミ!」レポート 連続講座「Meeting アラスミ!」レポート 連続講座 2020

「Meeting アラスミ!」レポート 連続講座  2020年

Vol.6 官能都市とは

官能都市とは

実施日:2020年10月27日(火)

ゲスト講師:島原万丈(LIFULL HOME’S 総研 所長)

報告:森隆一郎(東京藝術大学大学院 国際芸術創造研究科 特任助教)

2020年度の初回は、総合政策としての新しい文化政策を考える上で、そもそも暮らしやすい街とはどのようなものなのかという点を踏まえ、まちづくりに対して芸術や文化がどのように作用するのかを考察する必要があると考えた。そこで、LIFULL HOME’S総研所長の島原万丈氏にゲスト講師として登壇いただき、不動産やまちづくり業界に大きな影響を及ぼしたレポート「Sensuous City[官能都市]―身体で経験する都市;センシュアス・シティ・ランキング」についてお話しいただいた。合わせて今後のまちづくりにおいて必須の概念である「寛容性」についても、同研究所のレポート「寛容社会 多文化共生のために<住>ができること」のデータを元にその概要を紹介いただいた。

センシュアス・シティ調査は、都市における官能的な体験の実際をつかむことを目的に、関係性と身体性という視点から、都市生活者の「体験」を積み上げることで都市の実相を可視化するものである。たとえば、関係性指標は「共同体に帰属している」「匿名性がある」「ロマンスがある」「機会がある」の4つに大別され、身体性指標は「食文化がある」「街を感じられる」「自然を感じる」「歩ける」という視点から設問が設定されている。これら「動詞」での評価は都市の「体験価値」を明らかにするものともいえよう。また、このセンシュアス指標による都市評価と幸福実感度/住民満足度には正相関が見られたという。評価軸「センシュアス指標」は、文化政策の評価とも相性が良く、定量評価がしづらいと言われる文化政策について一定の指標を提示する可能性があるのではないだろうか。また、「寛容社会」についての調査では、外国人との交流が社会全体への寛容度を高め、寛容度の高い人ほど地域での被承認意識が高いことが明らかになった。新たな文化政策においては、住民QOLの向上を目標に、多文化共生政策の文脈と文化政策を掛け合わせることの有効性の裏付けにもなると感じた。

 

《参考資料》LIFULL HOME’S総研による研究報告書

・「Sensuous City[官能都市]―身体で経験する都市;センシュアス・シティ・ランキング」(2015) https://www.homes.co.jp/souken/report/201509/

・「寛容社会 多文化共生のために<住>ができること」(2017) https://www.homes.co.jp/souken/report/201704/

Vol.7 地域とアーティスト・イン・レジデンス

地域とアーティスト・イン・レジデンス

実施日:2020年11月10日(火)

ゲスト講師:吉田雄一郎(城崎国際アートセンター プログラム・ディレクター)

報告:森隆一郎(東京藝術大学大学院 国際芸術創造研究科 特任助教)

2020年度第2回目の講義は、芸術文化が総合政策の軸として位置づけられている兵庫県豊岡市から、アーティスト・イン・レジデンス(AIR)施設「城崎国際アートセンター(KIAC)」のプログラム・ディレクター吉田雄一郎氏にご登壇いただいた。講義では、豊岡市が進める文化政策について概観した上で、AIR事業の実態を学んだ。豊岡市は「小さな世界都市」を標榜し、AIR施設としてのKIACを端緒に、劇団青年団の新拠点である「江原河畔劇場」や2020年に初回を開催した「豊岡国際演劇祭」、そして2021年4月に開学予定の「芸術文化観光専門職大学」などの施策を立て続けに打ってきた。それは、地域活性のためには「文化の自己決定能力」が必須であり、その能力は一流の芸術文化に触れられる環境がなければ育たないというKIAC芸術監督でもある劇作家・平田オリザ氏の唱える理念に基づいている。

事実、豊岡市では創造する場(KIAC)があることで、アーティストの存在が身近なものになり、教育との連携(小学校でのコミュニケーション教育としての演劇教育)が起こっている。また、若者が住み続けられ、よそからも若者が入ってくる仕組みとして大学を設置することで、人口減を少しでも抑え、将来発展するための基盤を固めようとしている。

「Meeting アラスミ!」に参加する3区(足立区、墨田区、台東区)においては、民間主導で遊休施設や空き家をアーティスト向けのスタジオやレジデンスに改装した事例が見られるが、いずれも資金面での不安定さを抱えている。これらの場所は、新たな人の流れや地域の関係性の更新など、さまざまな効果を生む文化拠点として期待できる。そこで、各区における公共施設マネジメントや空き家対策などの諸政策と連携の上、文化政策としてこれらの地域文化拠点を支援できれば、地域活性化、教育との連携、国際化など、さまざまな領域に波及効果が生まれるだろう。城崎では外国人にインスピレーションを与えられる温泉街の街並みや創造に集中できる環境が内外からのアーティストたちに喜ばれているという。アーティストに魅力的な町はクリエイティブクラス(創造的人材)にも響く可能性があり、富裕層のインバウンド(文化観光)にも好影響であろう。本講義はこれら文化政策の多様な可能性を考える上での材料に富む講義となった。

 

《参考サイト》城崎国際アートセンター http://kiac.jp/

2019年度の記事をまとめて読む
2021年度の記事をまとめて読む
「Meeting アラスミ!」レポート 連続講座のTOPヘ