全国で胎動する新たな文化的取組み1—パーラー公民館(沖縄県那覇市)の事例から—

実施日:2019年11月19日(火)

ゲスト講師:宮城潤(若狭公民館 館長)

新しい文化政策を考えるうえで、本連続講座では全国の新たな文化的取り組みをクローズアップして取り上げる。11月のゲスト講師は、沖縄から登壇した宮城潤氏。

宮城氏が14年間勤務する若狭公民館は、近隣の自治会長や民生委員、学校関係者や公民館の利用者らで構成されるNPOが指定管理者となって運営している。このような地域のネットワーク組織による運営体制がスタートしたのは、公民館を拠点とした地域連携による利活用の話し合いが行われたことがきっかけであったという。

 

「そもそも公民館とは何なのか?」社会教育法で公民館が定められた1949年にさかのぼり、当時の公民館図説がスライドで紹介された。地域住民が自ら知識や技能を学び合いながら地域課題の諸事情に対応していく拠点として公民館が設置された戦後から、行政サービスが充実してサークル活動などの娯楽の場となった高度経済成長期へ、求められる公民館の役割が変化してきたと宮城氏は考察する。宮城氏が勤め始めた2006年当時の若狭公民館も趣味的な講座がほとんどで、利用者に偏りがあったという。クリエイティブで面白いことが起こるような場を目指し、まずは実態調査が始められた。

若狭公民館は沖縄県内有数の歓楽街を有するエリアにあって働く女性が多いことから、那覇市の夜間保育園のほとんどが集中し、全国的に増えている外国人留学生や就業者も非常に多い。ただ地域活動に参加する若者は見られなかったという。そこで始められたのが月に1回、ご飯を食べるだけの「一品持ち寄りの朝食会」。企画にあたって意識したのは「入りやすくて抜けやすい」こと。だから頑張ってお客さんをもてなすこともしない。それでも最初は一人で来ていた若者が2〜3人で来るようになり、12年にわたり続けられ、現在では子育ての情報交換の場としても活用されている。さらに、シングルマザー向けの子育て講座など、他のNPO等と連携しながら行った取り組みが後押しになり、非婚母子世帯の保育料みなし適応が実現した。

一方で、公民館のあり方を捉え直したことで、全国から注目された取り組みがある。那覇市に設置された7館の公民館ではカバーしきれない空白地域ができてしまうため、若狭公民館は他地域と連携し、協力体制について提案してきた。そこで登場したのが、移動式屋台型公民館。公園にパラソルと黒板でできたテーブルを配置し「公民館」とするこの活動は戦後の資材不足の際にできた青空公民館から着想を得たもので、公民館を施設ではなく機能として捉え直して企画開発された。「パーラー公民館」と名付けられたこの取り組みは色々なメディアに取り上げられるようになり、就労支援団体との連携も生まれたという。

また、空白地域では公民館併設の図書館も利用できないため、パーラー公民館で移動図書館も実施。子供たちに絵本の読み聞かせや遊びを提供するこの活動も、こども食堂との連携などへ広がりを見せている。

 

公民館が地域社会にとって必要な存在になることを目的とした、これまでのさまざまな取り組みについて「最初はこちらが仕掛けて、地域の方は協力しますよというところから、だんだん地域の方が主体的に動くように」と宮城氏が語るように、現在では地域のまちづくり協議会などが主体となって取り組んでいる。自主性や主体性をいかした多様な連携が生まれ、新たな人的交流によって豊かな地域社会の実現に近づける、こうした地域主体の動きに今後も注目が集まる。

 

《参考サイト》那覇市若狭公民館 https://cs-wakasa.com/kouminkan/