官能都市とは

実施日:2020年10月27日(火)

ゲスト講師:島原万丈(LIFULL HOME’S 総研 所長)

報告:森隆一郎(東京藝術大学大学院 国際芸術創造研究科 特任助教)

2020年度の初回は、総合政策としての新しい文化政策を考える上で、そもそも暮らしやすい街とはどのようなものなのかという点を踏まえ、まちづくりに対して芸術や文化がどのように作用するのかを考察する必要があると考えた。そこで、LIFULL HOME’S総研所長の島原万丈氏にゲスト講師として登壇いただき、不動産やまちづくり業界に大きな影響を及ぼしたレポート「Sensuous City[官能都市]―身体で経験する都市;センシュアス・シティ・ランキング」についてお話しいただいた。合わせて今後のまちづくりにおいて必須の概念である「寛容性」についても、同研究所のレポート「寛容社会 多文化共生のために<住>ができること」のデータを元にその概要を紹介いただいた。

センシュアス・シティ調査は、都市における官能的な体験の実際をつかむことを目的に、関係性と身体性という視点から、都市生活者の「体験」を積み上げることで都市の実相を可視化するものである。たとえば、関係性指標は「共同体に帰属している」「匿名性がある」「ロマンスがある」「機会がある」の4つに大別され、身体性指標は「食文化がある」「街を感じられる」「自然を感じる」「歩ける」という視点から設問が設定されている。これら「動詞」での評価は都市の「体験価値」を明らかにするものともいえよう。また、このセンシュアス指標による都市評価と幸福実感度/住民満足度には正相関が見られたという。評価軸「センシュアス指標」は、文化政策の評価とも相性が良く、定量評価がしづらいと言われる文化政策について一定の指標を提示する可能性があるのではないだろうか。また、「寛容社会」についての調査では、外国人との交流が社会全体への寛容度を高め、寛容度の高い人ほど地域での被承認意識が高いことが明らかになった。新たな文化政策においては、住民QOLの向上を目標に、多文化共生政策の文脈と文化政策を掛け合わせることの有効性の裏付けにもなると感じた。

 

《参考資料》LIFULL HOME’S総研による研究報告書

・「Sensuous City[官能都市]―身体で経験する都市;センシュアス・シティ・ランキング」(2015) https://www.homes.co.jp/souken/report/201509/

・「寛容社会 多文化共生のために<住>ができること」(2017) https://www.homes.co.jp/souken/report/201704/