地域とアーティスト・イン・レジデンス

実施日:2020年11月10日(火)

ゲスト講師:吉田雄一郎(城崎国際アートセンター プログラム・ディレクター)

報告:森隆一郎(東京藝術大学大学院 国際芸術創造研究科 特任助教)

2020年度第2回目の講義は、芸術文化が総合政策の軸として位置づけられている兵庫県豊岡市から、アーティスト・イン・レジデンス(AIR)施設「城崎国際アートセンター(KIAC)」のプログラム・ディレクター吉田雄一郎氏にご登壇いただいた。講義では、豊岡市が進める文化政策について概観した上で、AIR事業の実態を学んだ。豊岡市は「小さな世界都市」を標榜し、AIR施設としてのKIACを端緒に、劇団青年団の新拠点である「江原河畔劇場」や2020年に初回を開催した「豊岡国際演劇祭」、そして2021年4月に開学予定の「芸術文化観光専門職大学」などの施策を立て続けに打ってきた。それは、地域活性のためには「文化の自己決定能力」が必須であり、その能力は一流の芸術文化に触れられる環境がなければ育たないというKIAC芸術監督でもある劇作家・平田オリザ氏の唱える理念に基づいている。

事実、豊岡市では創造する場(KIAC)があることで、アーティストの存在が身近なものになり、教育との連携(小学校でのコミュニケーション教育としての演劇教育)が起こっている。また、若者が住み続けられ、よそからも若者が入ってくる仕組みとして大学を設置することで、人口減を少しでも抑え、将来発展するための基盤を固めようとしている。

「Meeting アラスミ!」に参加する3区(足立区、墨田区、台東区)においては、民間主導で遊休施設や空き家をアーティスト向けのスタジオやレジデンスに改装した事例が見られるが、いずれも資金面での不安定さを抱えている。これらの場所は、新たな人の流れや地域の関係性の更新など、さまざまな効果を生む文化拠点として期待できる。そこで、各区における公共施設マネジメントや空き家対策などの諸政策と連携の上、文化政策としてこれらの地域文化拠点を支援できれば、地域活性化、教育との連携、国際化など、さまざまな領域に波及効果が生まれるだろう。城崎では外国人にインスピレーションを与えられる温泉街の街並みや創造に集中できる環境が内外からのアーティストたちに喜ばれているという。アーティストに魅力的な町はクリエイティブクラス(創造的人材)にも響く可能性があり、富裕層のインバウンド(文化観光)にも好影響であろう。本講義はこれら文化政策の多様な可能性を考える上での材料に富む講義となった。

 

《参考サイト》城崎国際アートセンター http://kiac.jp/