全国で胎動する新たな文化的取組み3—アーツセンターあきた(秋田県秋田市)の事例から―
実施日:2020年1月14日(火)
ゲスト講師:藤浩志(美術家、NPO法人アーツセンターあきた理事長、秋田公立美術大学教授)
全国から新たな文化的取り組みを紹介する3例目は、秋田県秋田市の「NPO法人アーツセンターあきた」。理事長の藤浩志氏が、立ち上げの経緯やその役割について語った。
都市計画事務所や十和田市現代美術館館長を経て秋田公立美術大学教授を務め、自身も美術家として活動する藤浩志氏。「アーツセンターあきた」の設立に至るまでの流れを遡る中で、1989年をキーイヤーに挙げた。この年にできた水戸芸術館をアートセンターの先駆けとして言及し、作品を展示する以外に教育普及の専門家がいることや、まちなかでの表現活動を仕掛けるなど、美術館のあり方が大きく変わっていったと考察。また、89年は藤氏がMacOSと出合い、オペレーティングシステム(OS)の概念に衝撃を受けた年でもあるという。当時、都市計画に携わっていた藤氏は、OSを都市計画に持ち込むことを考えるようになる。のちに、自身の作品にもOSを取り入れるようになり、市民や地域、アーティストの活動が自主的に発生していくことを考える上で、OSを動かすハードウェアの重要性に着目するようになったという。
このような背景から、「プロジェクトづくり」は、「場づくり」と「システムづくり」の両輪になると考え、新しいことが発生する現場としての美術館に興味を持っていた藤氏。そこで、「空間」「場」「美術館」の運営を学ぶため、2012年に十和田市現代美術館館長に就任した。十和田市現代美術館を運営する中で、どのように大学生や若い人たちを集めるかを思案していたところ、2013年に秋田公立美術大学(以下、秋美)が開学すると耳にする。そのことを聞いた時は「隣県に美大ができれば若者が(十和田にも)集まって展覧会もどんどん作ることができる」と大いに期待し、秋美でも教鞭をとることになる。
その後、美術館館長との兼任を経て秋美の教授となった藤氏は、秋美と地域の面白い化学反応を引き起こすには、それをコーディネートし、マネジメントする人材が必要だと感じていたという。秋美の中期目標には社会連携、社会貢献が掲げられており、その一環として「社会貢献センター・アトリエももさだ」が大学内に設置されていた。「アトリエももさだ」では、地元企業との連携事業やこども向け教室など活動が行われていたが、アートマネージャーが不在であった。そこで、それらの活動をマネジメントする人材を確保すべく、秋田市から大学への交付金をもとに新たに設立されたのが「NPO法人アーツセンターあきた」である。
藤氏は、十和田市現代美術館や芸術大学のように、10年、20年後の文化や芸術になるものを育て、醸成し、今はまだ価値がないものから新しいものを生み出していくための仕組みとしてアーツセンターがあるのではないかと話す。実際に「アーツセンターあきた」では年間を通じて数多くの展覧会を開催しており、プロジェクトも多岐に渡るという。具体的な事業としては、障害者アートの公募展や、大学の広報を兼ねた高校生対象の公募型合宿などを紹介。今後は、福祉施設などにアーティストを派遣する事業や市民のための生活工房の設置など、さまざまな企画を行っていきたいとした。さらに、秋田駅前の活性化を目指した新しい事業計画にも触れ、アーツセンターを媒介にまちをどう活用するかが大事であると話した。
これらの事業は告知だけでなく、レビューやアーカイブを行うことも重要で「きちんとアーカイブすれば展覧会を実際に見に来られなくても読んでくれる人が結構いるんです。そういったアーカイブが蓄積していくと、大学があることによる産業や地域とのつながりも分かってきます」と藤氏は語った。「アーツセンターあきた」の事例からは、NPOが大学の存在意味を提示しながら、地域の中で自由に動き接点や広がりをつくっていくための可能性を秘めていることが示唆された。
《参考サイト》NPO法人アーツセンターあきた https://www.artscenter-akita.jp/