官・民・学の協働による文化政策の可能性

実施日:2021年12月21日(火)

ゲスト講師:戸舘正史(愛媛大学社会協創学部地域資源マネジメント学科助教、松山ブンカ・ラボディレクター)

報告:韓河羅(東京藝術大学大学院 国際芸術創造研究科 博士後期課程)

2021年度連続講座の第3回目は、「松山ブンカ・ラボ」のディレクターである戸舘正史氏が、官・民・学で取り組む地域の文化芸術振興について講義を行った。

愛媛県松山市を拠点とする松山ブンカ・ラボは、愛媛大学内に設置された組織で、地域のアーツカウンシル的な機能を担っている。その運営資金は松山市が拠出しており、官・民・学がミッションを共有し運営する中間支援組織として全国的にも類のない事例である。松山ブンカ・ラボの前身は「松山アーバンデザインセンター」という都市計画の中間支援組織であり、その枠組みを引き継ぐ形で立ち上げに至った。ただし、都市計画との明確な違いは、文化芸術は課題解決を目指すのではなく課題そのものを顕在化させ、その課題を見るための補助線を引くことであると戸舘氏は強調した。

松山ブンカ・ラボは「みんなが文化の当事者になる」「寛容な眼差しを育てる」をビジョンに掲げ、①講座・ワークショップ、②公募型共催事業、③事業協力という3つのプログラムを主に展開している。それぞれの実施目的は異なっており、①の場合、アートマネジメントに特化せず、社会の当事者として広い視点を持ってもらうことを目指している。②は、地域の担い手づくり、③は既存の活動をカスタマイズし、発展させることを目指している。これらのプログラムを実施する際にはステークホルダーとの関係構築が欠かせず、特に「文化芸術分野の『外側』にある創造的な市民コミュニティと積極的に関係性をつくることを意識している」という。その背景には、松山ブンカ・ラボを通じて異質なもの同士を繋ぐという戸舘氏の思いが垣間見える。

戸舘氏が松山市に赴いた当初、まちなかで感度の高い音楽フェスティバルを行う市民たちの存在に衝撃を受け、「自走する市民がすでにまちにいる中で、中間支援が果たせる役割とは何なのか」という問いに立ち返ったという。そのひとつの答えとして「中間支援という制度的な設えがあることで、共通の感性を持った同質的なコミュニティとは違い、色んな属性の異質な人同士が安心して参加できるコミュニティをつくれるのではないか」と戸舘氏は述べた。

しかし、文化政策には限界もあり、たとえ公的な制度を整えてもそこからこぼれ落ちるターゲットや課題は尽きない。そこで最近は、全国各地で草の根的に議論されている民間サイドからのアーツカウンシルのあり方に関心を寄せているといい、行政や資金にとらわれない柔軟な中間支援という次なる可能性が最後に示唆された。

 

《参考サイト》松山ブンカ・ラボ:https://bunka-lab-matsuyama.com/