基礎自治体の広域連携による文化政策の可能性

実施日:2021年11月13日(土)

ゲスト講師:水戸雅彦(えずこホール[仙南芸術文化センター]前館長)

報告:韓河羅(東京藝術大学大学院 国際芸術創造研究科 博士後期課程)

2021年度連続講座の第2回目は、広域連携による文化政策を実践している「えずこホール」に着目。前館長である水戸雅彦氏がその取り組みについて語った。

宮城県南部の村田町・柴田町・大川原町の境に位置する「えずこホール」は、2市と7町からなる広域行政事務組合*が運営管理をしているホールである。ホールの設立は宮城県が主導したものの、設立後は3町が資金を拠出し運営している。開館当初から掲げているコンセプトは「住民参加型文化施設」。イベント時のみ人が集まる文化施設ではなく、住民たち自らの手でホールをつくることを目指している。

「えずこホール」の各事業は、(1)活力あふれる創造発信事業(住民による企画や公演事業)、(2)うるおいの圏民参加体験事業(アウトリーチ・ワークショップ事業)、(3)心の鑑賞事業(多様なジャンルの公演や青少年向けの多文化共生事業)、という3本の柱を元に展開されている。最近は特に、地域に住む若い世代を対象にした多文化共生事業に注力しているという。令和元年度の総事業数は122事業、参加者数は27,198人に上り、全国的に見ても多くのコミュニティ・プログラムを実施している。その意図としては、さまざまな参加のフックをつくることで、「文化芸術は縁遠い」と考えている住民にもホールの取り組みを届けるためであると水戸氏は語る。

「えずこホール」が、老若男女、国籍、障害の有無等にかかわらず、すべての住民を対象とした事業を意識している背景には、「劇場、音楽堂の活性化に関する法律」(2012年)、「文化芸術基本法」(2017年)、「障害者による文化芸術活動の推進に関する法律」(2018年)といった国の文化政策の変化が影響している。つまり、ジャンルそのものを振興するのではなく、文化芸術を通じてどのような社会効果を発揮していくのかという文脈が求められている。水戸氏は、文化芸術の社会的価値として「社会包摂」をキーワードに挙げ、「行く・帰る場所ではなく、誰でもいられる場所」としてのホールのあり方を喚起した。

最後に、広域行政事務組合がホールを運営するメリットとして、一人の首長の意見にホールの運営が左右されない点や、ホール側に運営の裁量権があるため新たな事業提案が通りやすい点を挙げた。一方で、多くの自治体が関わることで「自分のホールでありながら、自分のホールではない」状況が生まれ、口は出さないがお金も出さないというスタンスに陥りやすい点をデメリットとして指摘した。複数の自治体が協働することの難しさを抱えながらも、多くのプログラムを通じて地域に創造性の種を蒔いてきた「えずこホール」。広域連携による文化政策のリーディングケースとして、その次なる展開にも注目したい。

*一部事務組合と同義。一部事務組合は、普通地方公共団体がその事務の一部を共同して処理するために、協議により規約を定め、構成団体の議会の議決を経て、都道府県が加入するものにあっては総務大臣、その他のものにあっては都道府県知事の許可を得て設ける特別地方公共団体である。(引用:総務省「共同処理制度の概要」令和2年9月30日)

 

《参考サイト》えずこホール:http://www.ezuko.com/